伝説のボクサー、モハメド・アリ(ムハマド・アリ)が言った言葉で、好きなものがあります。
不可能とは現状に満足し自分の力で世界を変えようとしない人間が言うことだ!
不可能とは挑戦であり可能性だ!
テレビを見ていて、忘れないようにとすぐにメモを取った。
生まれ育った京都洛北、一乗寺にはかつて染工場がたくさんありました。
自宅のある町内には、僕が覚えている限りで7軒の染工場と1軒の蒸し工場があった。
もう少し範囲をひろげれば、200軒以上の染工場があったと父親から聞いた記憶があります。
それも、もう50年以上も前の話。
僕が知る限りでも、たくさんあった工場も今は数えるほどになった。父親が言っていた時代とはずいぶん変わってしまいました。
仕事も減り、知り合いの同業者も工場を手放したり、マンションオーナーになったりしました。
うちが残っているのは決して「勝ち組」とは言えないし、周りからは「マンション建てて、ラクしたらええやんか」と言われます。
確かにそういう人生の選択もある。
だけど、アリの言葉を大切にしていることにつながるんですが、やめる前にもっとやらなあかんことが僕にはたくさんあるし、いろいろと納得いかんことも山ほどあります。
今さらですが、僕は京都を拠点に染色加工の仕事をしています。会社は鷲野染工場といいます。
工場といっても働いているのは僕だけで、家内が事務的な部分をサポートしてくれています。
よく「染め」「京都」という言葉を聞いてイメージされるのが「京都の染め」=「着物」。
それも「手描き友禅」をイメージされる人が多い。
意外と知られていないのが京都は着物などの和装だけではなく、洋装生地の産地でもあり、鷲野染工場が捺染(染めること)してきた物は、着物や帯などの和装関係の生地ではなく、洋傘、婦人服、紳士シャツ、バッグ、水着などに使用する洋装の生地が主体です。染める方法は手描きや機械でするんちごうて、型(シルクスクリーン)を使った手捺染(ハンドプリント)にこだわってやってきた。
「染める仕事」とはいえ、得意先から受注した量(m数)の生地を染めるだけが仕事ではなく、そこまで到達するのにいくつもの工程がある。
型屋さんへの型の制作依頼から配色の工程、サンプル作り、染めた後には生地に色を定着させるために蒸し加工をします。その後は整理屋さんで洗い、シワ伸ばしをして検反(商品検査)をして出荷する。
京都の捺染業界は分業制(染工場、蒸し屋、整理屋、型屋、材料屋など)で1つのプリント生地を作っています。いろんな人の手に渡って仕事が成り立つわけです。
かれこれ30年以上、京都で「ものづくり」に携わらせてもらってます。いろいろと経験を積む中で、「良いものづくり」って何なのかと考えてきました。
これは、抽象的な表現かもしれませんが、自分の仕事に信念と責任感を持ち、嘘がないか、つまりは妥協せずに仕事に取り組めているかどうか。これらは「良いものづくり」を目指すうえで、とても重要なことやと思うんです。
今の日本の繊維業界、そして京都の捺染業界を見渡したときに「良いものづくり」っていうのを自分なりに考えたり、実行したりしている人ってどれくらいいるんやろうと疑問を持つことが多くなった。プリント生地の質が見分けられる人、業界全体のことを考えてマネジメントできる人や加工屋の事情を理解している人などの「人材」が不足していることも確かやと思う。自分もまだまだ勉強中ですが、そう思うんです。
「自分は加工屋だから頼まれた仕事だけに向き合っていれば良い」という無責任なことは思っていなくて、今は自分で商品を考えたり、売り先と交渉したり「加工屋での学び」とは違ったことを経験し、勉強しています。
簡単やないけど、僕はこの先業界全体の仕事の質が向上して経済的にも良くなっていけばと思っている。
だから、仕事をする中で人とぶつかることが多いです。
古臭い人間で、頑固なのは自分でもわかっていますが・・・煙たがられてます(笑)
これはあくまで、僕の意見やけども誰かが声をあげたり行動したりせなあかんと思う。
「良い物」を作ろうとするならば、「信念」と、「良い材料」、「良い道具」、そしてそれらをそろえるための「お金」が必要です。
そして何より「腕の良い人間」を育てることです。
これは僕らの染屋だけでなく、糊や染料を提供してくれる材料屋、道具屋などの協力工場も同じです。
少し話は脱線するかもしれんけど、どの分野も人間を育てないと。有能なロボットや精巧な機械も原点を探れば優秀な人間を見てつくったもの、そのモデルがいなくなってはだめやと思います。決して世の中や業界の「機械化」を否定しているわけではありません。人間技と機械の合理化が共存できることが理想やと思うんです。
いろいろと話が飛んでしまいましたが、これらが僕の今考えていることです。
じゃあ、世間と「真逆」といっていい考え方をしている僕は今後どうしていくのか……
これをこのWEB連載でお伝えしていこうと思います。
灯光舎の面高氏との出会いがきっかけでこのWEB連載の機会を得ました。
「なんで、僕……?」と思ったけれど、これは僕にとって新しい挑戦であり、良い機会だと思った。
京都の繊維業界や僕のやっている捺染業界は「先細りの業界」です。その中でmade in Japanの見直し、printed by factory in Kyotoの良さを伝えていきたいという思いで僕の会社が取り組んでいることは少しずつ「前進」していると思う。
まだまだ大きな売上にはつながっていないけど、もっと勉強をして学んでいけば道は開けるはずやと思うんです。
このWEB連載は、過去を反省し、現在やっていることを見つめ、将来にどうつなげていくのかを考えるチャンスです。
これまでの自分自身を違った角度から見れることもそうやし、捺染業界を改めて見直すこともできると思います。
僕の思考の過程や取り組みをリアルタイムで書いていけたら思っています。
どんな記事を書いていくのかわかりませんが、よろしくお願いいたします。
ご意見もぜひいただければと思います。